中小企業と退職給付会計 ① 概要

posted by 2022.09.13

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 退職給付会計とは、会社が将来支払う予定の退職金を現時点で見積もる制度です。

 

 決算書には貸借対照表の固定負債として「退職給付引当金」、損益計算書の販売費及び一般管理費の「退職給付費用(退職給付引当金繰入)」として出てきます。
ただ中小企業の決算書ではあまり目にすることがありません。
これは計上しなくていいものなのでしょうか。

 

 中小企業において退職給付引当金が計上されていない理由としては次のようなものがあります。

 

① 退職給与規程がない

 労働基準法には退職金の支払いを義務付ける規定がなく、就業規則に書いてある場合や退職給与規程がある場合のみ支払義務が発生します。
したがって特に規程を定めずにその都度状況に応じて支払っている場合は退職給付引当金の計上も必要ないことになります。

 

② 中退共に加入している

 中小企業退職金共済は独立行政法人勤労者退職金共済機構に毎月掛金を支払い、退職時に従業員に直接退職金が支払われる制度です。
掛金の累計支払額をベースに退職金が支払われるので会社に追加負担が発生することはありません。
したがって掛金を費用計上するだけで処理は完了で、退職給付引当金の計上は必要ありません
同様に会社に追加負担のない確定拠出年金についても退職給付引当金の計上は必要ありません。
なお中退共と退職一時金を併用している場合には、退職一時金部分には退職給付引当金の計上は必要ということになります。

 

③ 税法基準で決算をしている

 会計監査が必要な上場企業やその子会社では株主や債権者に正確な債務を伝えるために「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に従う必要があり、退職給付会計もその中に含まれます。
しかし、一般の中小企業ではそこまで求められていないため、決算書は税法基準で作成されています。

 税法基準とは法人税を計算するための決算の仕方で、株主や債権者向けの企業会計基準とは処理が異なってきます。
税法基準では、退職金は実際に支払った時には損金(税務上の経費)になりますが、見込み額を積み立てている段階では確定債務とは言えず損金になりません。
つまり、企業会計基準に則って退職給付費用を計上しても、税務上は損金にならず法人税の対象になってしまうのでわざわざ計上していないのが実際のところです。

 

 とは言え、上場を目指しているケースやより企業価値を知るためにより正確に決算したいケースもありますので、退職給付引当金の計上方法について次回見ていきます。