前回の続きで相続時精算課税制度がさほどヒットしていない要因について見ていきます。
<申告データより>
相続時精算課税ができたのは平成15年です。
初年度の件数は約7.8万件でしたが、直近の令和2年は約3.9万件と半分になっています。
暦年課税は平成15年も前年より増えて約40.3万件、直近の令和2年は44.6万件です。
相続時精算課税ができたことで暦年課税が減ったということはなさそうです。
なお暦年課税は相続税の基礎控除縮小で増税になった平成27年が約48.9万件と最も多くその後は微減という状況です。
<相続時精算課税のデメリット>
なぜさほど広がらないかという理由をデメリットから探ります。
① 途中でやめられない
一度相続時精算課税を選ぶと「やっぱりコツコツ110万円に戻したい」と思ってもできません。
なお、父からは相続時精算課税、母からは暦年課税というようなもらい方はできます。
② 贈与時の価額で足し戻す
相続時精算課税を使って贈与した財産は相続時に足し戻しますが、この時の金額は贈与時の価額です。
つまり値上がりしていれば安く移せて、値下がりするならしなければよかったということになってしまいます。
③ 小規模宅地の評価減
被相続人が居住または事業に使っていた土地は80%または50%の減額特例がありますが、先に相続時精算課税で渡してしまうと小規模宅地の評価減は使えません。
どっちみち評価が下がる土地は相続時精算課税に使わない、という発想もあります。
④ 相続対策にならない
時価の変動、収入の有無、贈与の規模など様々な要因がありますが、結局相続対策にならないケースが多いです。
例えば10年間暦年贈与して亡くなった場合、暦年課税であれば最後の3年分だけ相続財産に足して、7年分は暦年贈与で完結です。
ところが相続時精算課税だと10年分全て足すことになります。
先日、収益への所得税なども考慮して試算したケースでは時価が2割上がらないと加算年数による差を逆転しないという結果となりました。
もちろん相続時精算課税にはメリットもあるので次回見ていきます。