相続税調査の状況

posted by 2021.01.8

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 前回の続きで相続税調査の動向を見ていきます。

 

1.調査の実態

 相続税の申告をした方のうち、税務調査が来るのは9.2%と1割弱です。
しかし、調査に来た場合は85%で何らかの申告漏れが見つかっています。
その理由として、財産を動かしていた当事者が亡くなっているので、遺された相続人が完璧に財産を把握するのが難しいという面があります。
また現実的な理由として、税務署が下調べをして漏れがありそうなところを調べに来ているという面もあります。

 ではどれぐらい申告漏れが見つかるかというと、1件当たり2866万円で、相続税としては641万円増えています。
1件当たりの税額は前年に比べて12%増えており、コロナ禍で件数が限られる中、より的を絞って効率よく調査していたことが読み取れます。

 コロナ禍での税務調査の仕方として「簡易な接触」も行なわれています。
これは自宅に調査に行かずに、文書や電話、税務署への呼び出しなどで申告内容を確認するものです。
議論になりにくいはっきりとした漏れや少額の案件「簡易な接触」で済まされることがあります。
そのため1件当たりの申告漏れも494万円、相続税で48万円と一般の調査に比べると少額です。

 

2.強化分野
① 無申告
 他の税目と同様。課税の公平の観点から無申告事案を重点的に調査しています。
申告漏れの割合は85.5%と一般と同水準ですが、1件当たりの申告漏れは8414万円、相続税で897万円と多額になっています。

 

② 国際案件
 こちらも他の税目と同様、海外財産について重点的に調査しています。
海外財産については世界中調べに行くわけには行かないので次のような方法で情報収集しています。

<CRS情報>
 共通報告基準に基づく国際的な情報交換年に1回自動的に情報が送られてきます。
 大阪の事例では13億円もの海外預金がこの方法で見つかっています。

<国外送金調書>
 100万円超の国外送金があった場合、金融機関から税務署に調書が提出されます。
 関東の事例では海外から国内へ送金した預金を現金化して貸金庫に分散していた事例で7.8億円の申告漏れが見つかっています。
 現金を探すのは難しいですが、動きを元に税務署はあるべき財産を推定しています。

<租税条約に基づく情報交換>
 外国税務当局に資料を依頼して財産の全容を把握します。
 東京の事例では、海外送金を端緒に外国に照会をかけることで、8.5億円の申告漏れが見つかっています。

 これらの取り組みより、海外案件では1件当たり5193万円の申告漏れが見つかっており、前年より3割ほど増えています。

 

3.地域特性

 申告漏れの内容は地域によって差があります。
国税局単位で特徴を見てみます。

・株式が多いのは札幌、名古屋、大阪。逆に極端に少ないのは沖縄。
・預金が多いのは高松、大阪、熊本、広島。
・土地が多いのは沖縄、関東甲信越、東京。

 大型の申告漏れがあればそれに引っ張られる面はありますが、地域ごとの特徴があって興味深いです。

 

 次回は、相続税の調査でよく問題になる名義預金について見ていきます。