前回の続きで暦年課税制度と改正後の精算課税制度の比較について見ていきます。
アリかナシかの前に精算課税制度の手続きを確認しておきます。
1.手続き
① 従来
初年度に贈与税の申告書と共に相続時精算課税選択届出書を提出
② 改正後
精算課税で110万円以下の贈与をする場合は税額0円なので申告不要。
ただし精算課税であることは宣言しておく必要があるので初年度に相続時精算課税選択届出書だけを提出。
2.暦年課税制度と精算課税制度の比較
① 事例1
<前提>
・財産1億円
・相続人は子2人
・子2人に毎年110万円の贈与を10年継続
<暦年課税>
・贈与税 0円
・相続税
課税価格 (1億円-2200万円)+(110万円 × 2人 × 7年)=9340万円
相続税額 671万円
<精算課税>
・贈与税 0円
・相続税
課税価格 (1億円-2200万円)+0(加算なし)=7800万円
相続税額 440万円(▲231万円)
② 事例2
<前提>
・財産3億円
・相続人は子2人
・子2人に毎年400万円の贈与を10年継続
<暦年課税>
・贈与税(400万円-110万円)× 15%-10万円=33.5万円
33.5万円 × 2人 × 10年=670万円
・相続税
課税価格(3億円-8000万円)+(400万円 × 2人 × 7年)=2億7600万円
相続税額 5960万円
<精算課税>
・贈与税 (290万円 × 10年-2500万円)× 20% × 2人=160万円
・相続税
課税価格(3億円-8000万円)+8000万円=3億円
相続税額 6920万円-既払贈与税160万円=6760万円(+290万円)
③ 比較
事例1では精算課税制度の方が231万円安くなっています。
贈与税がかからないのは両方同じですが、精算課税では生前贈与加算がない分、相続税が安くなります。
事例2では精算課税制度の方が290万円高くなっています。
贈与税だけで見ると暦年課税制度の方が高いですが、7年経過したものは生前贈与加算しなくていいのでその分財産を減らせます。
一方、精算課税制度では110万円超の贈与をした場合は何年前の贈与であっても加算する必要があるので相続財産は贈与前に戻ります。
④ まとめ
・もらう人あたり110万円以下の贈与しかしないのであれば精算課税制度が有利
⇒財産が比較的少ない人、若い人、現金しか贈与しない人向き
・110万円超の贈与をして積極的に相続対策するのであれば暦年課税制度が有利
⇒財産が多い人、比較的高齢の人、不動産や株式でまとまった贈与をする人向き
3.注意点
・精算課税制度は一度選ぶとやめることができません。慎重に検討した上で進める必要があります。
・暦年課税制度の生前贈与加算期間が7年に伸びたことから相続対策は従来より早めに実行する必要があります。
・相続人ではない孫への贈与は、そもそも加算対象外なので従来と変わらず暦年課税制度も使いやすいです。