前回の続きで相続前の引き出しに関する裁決事例をご紹介していきます。
<事例1(納税者負け)>
① 概要
・H19.4.11 被相続人入院
・H19.4.19 相続人が5000万円引き出し
・H19.4.末 被相続人死亡
・申告額 預貯金は840万円
② 相続人主張
・被相続人の指示で引き出して渡した。詳細は覚えていない
・被相続人から使途は聞いていないし、心当たりもない
③ 税務署主張
・大金を引き出して運んでおり、相続人が覚えていないのは不自然
・被相続人の消費傾向から考えてギャンブル等で数日間で費消したとは考えられない
・返済、資産の取得、寄附等に充てられた事実がない
④ 裁決
・被相続人によって費消されておらず、被相続人の支配が及ぶ範囲の財産から流出していないので相続財産に含まれる。
<事例2(納税者勝ち)>
① 概要
・H20.6.4 老人ホーム入所
・入院後~死亡 相続人がATMで出金
・相続人は一人
② 相続人主張
・被相続人は入所中も指輪等の貴金属を身につけていた
・出金は被相続人の指示によるもの
③ 税務署主張
・相続人が無断で引き出して利益を得ており、被相続人には不当利得返還請求権としての財産がある
④ 裁決
・不当利得返還請求権が成立するには相続人が原因無く利益を受け、被相続人に損失を及ぼしたと認められる必要がある
・被相続人の判断能力から考えて、出金を指示していた可能性を否定できない
・税務署から出金された資金の使途を示す証拠が示されていない
<ポイント>
・相続人が持っている、あるいは使ったという明確な証拠がない限り通常は課税されない
・相続人の申述が信頼に足るかどうか
・被相続人の生前の様子から被相続人が使っていたと推定できるか
・被相続人の判断能力や財産管理の状況は重要
裁決や判例は個別事情もあるため、他の事例にそのまま当てはまるわけではありませんが参考にはなります。
出金等する場合は、他の相続人や税務署に誤解されることないよう領収書や経緯のメモなどをきっちり残すようにしましょう。