所得税調査の状況

posted by 2020.11.30

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 国税庁から令和元年事務年度の所得税調査の状況が発表されていました。
令和元年事務年度は「令和元年7月~令和2年6月」の期間なので後半はコロナの影響があります。
1~3月は確定申告時期、6月は国税庁の異動前で元々少ないのですが、4~5月はある程度件数を稼いで年間ノルマを調整する期間なので調査件数にかなり影響が出ています。

 実地調査と”簡易な接触”の合計は43万1千件で、前年の61万1千件の7割ほどになっています。
”簡易な接触”というのは、調査官が納税者の自宅を訪問せず、税務署へ呼び出して面接を行う簡易的な税務調査を言います。

 今年度の43万1千件のうち、申告漏れがあった割合は26万2千件で、6割で追徴税額が発生しています。この割合は前年度とほぼ同じです。
ところが1件当たりの申告漏れの金額を見ると、148万円から183万円に増加しています。
税務署としては効率よく調査できたことになりますが、その要因としては次のような点が挙げられています。

 

① 富裕層への強化

 不動産や株の大口所有者や経常的な所得(事業や給与)が特に高額な個人を”富裕層”として積極的に調査しています。
 税務調査は通常、所得税、法人税、相続税など部門ごとの縦割りですが、富裕層が多い地域では縦割りを排したプロジェクトチームが作られています。
近畿圏では芦屋税務署のプロジェクトチームが積極的で、申告漏れは56人で19億円、1件当たりの金額は通常の2.8倍以上となっています。

 

② 海外案件への強化

 富裕層とも関連しますが、資産運用の多様化・国際化が進んでいることから海外資産を持つ個人への調査も強化されています。
どう調査しているかと言うと、国外送金調書、国外財産調書といった国内で手に入る調書だけでなく、CRS情報(OECD加盟国間での情報交換)も活用されています。
 これにより1件当たり2406万円の申告漏れがあり通常の2倍、富裕層の海外案件では4393万円で通常の3.7倍にもなっています。

 

③ ネット取引の強化

 メルカリやネット販売などに関する調査は把握が難しいだけに、近年資料情報を収集分析し、積極的に調査しています。
調査件数は1877件とまだ少ないですが、その9割で申告漏れが見つかり、1件当たり1264万円と通常の1.1倍となっています。

 

 従来の通常の調査と比べて、これらの案件に共通する特徴は、1件当たりの金額が大きいこと、資料情報が鍵を握ることと言えます。
コロナ禍で税務調査しづらい状況が続くだけに、申告漏れが見つかりやすく、金額も大きいこれらの案件は今後も強化されると考えられます。