前回の続きで貸倒引当金の「個別」引当について見ていきます。
その名の通り、債権に対する回収不能リスクを個別に見極めて、引当金として経費(損金)算入する方法です。
個別の見積もりが難しいことから形式基準でエイヤッという部分があるのが特徴で、一括評価と異なる点も多くあります。
<使える会社>(一括と同じ)
・資本金1億円以下の普通法人(資本金5億円以上の法人の100%子会社などを除く)
・資本金のない普通法人、公益法人、銀行等
<対象債権>
〇 売掛金、貸付金、受取手形、未収入金、立替金、求償権等
〇 未収利子、保証金、前払費用、仕入リベート等
一括では下の段は費用や預け金の性質を持つものとして引当できませんでしたが、個別は個々の債務者ごとに回収不能見込額を算定するので、一括より広い範囲での金銭債権が対象になります。
<引当事由と引当額>
① 長期棚上げ
会社更生法の更生計画認可の決定等(※1)により債権の猶予や弁済がある場合…5年経過後の弁済予定額
なお弁済猶予された金額は損失が確定するので「貸倒損失」になり、5年以内の弁済予定額は特に処理はなく売掛金等のまま残します。
※1 再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定、私的整理における債権者集会の協議決定等
② 実質基準
債務者の債務超過が相当期間(おおむね1年以上)継続し、事業好転の見込みがない場合や災害等で多大な損失がある場合…回収不能見込額(担保で回収できる部分は除く)
③ 形式基準
更生手続開始の申し立て等(※2)があった場合…(金銭債権-取り立て見込額)✕50%
※2 再生手続の開始の申立て、破産手続き開始の申立て、特別清算開始の申立て、手形の取引停止処分(2度目の不渡り)
実務上難しいのは②の実質基準です。
まず取引先の決算書なんて普通見れないので”債務超過”かどうかが分かりません。
さらにいくらが回収不能と見込まれるのかの判断も難しいです。
業績については業界内での噂や決算後申告までの状況も加味して推定し、回収不能見込みについては形式基準にならって50%にしたり、裁判における平均的な回収率を参考にしたりします。
貸倒引当金は、貸倒損失と異なり、確定的な損失ではなく見積もりなので税務署もあまりうるさくは言いません。
ただ金額が大きい場合には判断に至った根拠資料をできるだけ残しておいて説明できる状態にしておきましょう。