自己株式の売り手の税務

posted by 2019.05.24

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 前回までは自己株式を取得する会社側の取扱いを見ていきましたが、今回はその逆で会社に売る側の株主の処理を確認します。

 

<従業員が自社へ売却>

Q1 従業員が1株1万円で買った株を退職に伴い、額面相当の5万円で会社に買ってもらった。

A1 譲渡所得税 (5万円-1万円)✕20.315%=8,126円

税率は上場株式を売った場合と同じで復興特別所得税を含めて20.315%です。
申告分離課税なので利益が出ていれば確定申告が必要ですが、サラリーマンで他に所得がなく、年間利益が20万円以下なら申告不要です。

 

<役員が自社へ売却>

Q2 社長が設立時に5万円出資した株を発行会社に100万円で売却。

A2 売却益95万円が配当とみなされ、総合課税税率20.42%で源泉徴収された上で、確定申告時に精算。総合課税の税率は所得に応じて15.105%~55.945%

役員が発行会社に株を買ってもらう場合は時価である必要がありますが、儲かっている会社なら売値は1株当たりの資本等の額(いわゆる額面金額)を超えてきます。
超える部分は積み上げた利益なので、配当として還元したのと同じことになり、配当課税されます。
配当部分が1年当たり10万円以下であれば申告不要も選択できます。
配当は総合課税で累進課税の適用を受けるため、株価が高く株数が多ければ多額の税額が発生します。

 

この多額のみなし配当を避けるためには買い手を自社でなくす必要があります。
他の役員個人や大株主に買ってもらえれば、譲渡税の20.315%で済みますが、個人で多額の買取資金を用意するのは難しいかも知れません。
そこで相続税節税も兼ねて『持株会社設立』が行なわれることがあります。
持株会社に売るのであれば自己株式にならないのでみなし配当課税はありません。
またオーナーの株を持株会社に売ると、その時点では財産の形が株から預金に変わっただけで増減なしですが、その後の株価の上昇分は財産の増加にならず相続対策になります。
持株会社設立に関しては、適正時価の算定、買取り資金の調達、否認されないよう合理性の検証、納税猶予との比較など様々な論点がありますので、十分検討した上で実行することをお薦めします。

 

<相続時に会社に買い取ってもらう>

Q3 役員が亡くなり、相続した妻は会社と無関係なので会社に株を買ってもらった。

A3 亡くなってから3年10ヶ月以内に発行会社に売却した場合にはQ2のような『みなし配当課税』がなく、20.315%の譲渡所得課税のみ。

相続後に発行会社に売る場合は、納税資金を捻出するためのやむを得ないケースも考えられるので、例外的にみなし配当とせず、譲渡所得として課税とされます。
この場合、払った相続税の一部を株の取得費にできる『相続税額の取得費加算の特例』も受けることができ、税額を減らすことができます。