貸付金と相続税

posted by 2023.11.29

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 中小企業では会社の経営が厳しい時に、役員がお金を入れてやり繰りすることがよくあります。

 会社の決算書には通常「短期借入金」として計上され、役員個人から見ると「貸付金」という財産になります。
財産である以上、亡くなった時点で残っていれば相続税の対象になります。

 会社を助けるために貸していて、しかもいつ返ってくるか分からないのに相続税はきっちり取られるというのは役員やその相続人からするとちょっと釈然としないところがありますが、理論上は全額返済を受けることは可能なので額面で評価されます。

 

 ただし例外もあります。
次のような事情があって回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときは貸付金として評価されません。

・いわゆる倒産(手形の不渡り、会社更生法や民事再生法の手続開始決定、破産手続開始決定 等)

・業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき

 

 では、相続後に会社を清算して一部しか返ってこなかったらどうなるでしょうか。
貸付金6000万円を相続して、会社を清算すると1400万円しか返ってこなかったので、貸付金を1400万円として相続税の申告をしたところ、税務署との争いになった事例があります。

 2023年8月31日付けの東京地裁判決では、税務署の主張が通り、次のような理由により、6000万円そのままで評価すべきということになりました。

・会社は継続して債務超過の状況にあったものの、借入金は身内からの無利息かつ返済期限のないもので、返済時期や返済方法は調整可能で、直ちに返済すべきものでなかった。

・会社には不動産収入が継続的にあり、決算は黒字で、相続開始時点でも営業を継続していた。

・会社は被相続人の死亡によって事業の継続が困難になったわけではなく存続は可能であった。解散及び清算は損害の拡大を防ぐためにやむなく行われたというよりは、あくまでも経営上の判断の結果によるものであった。

 

 実際には全額回収できないのに額面での評価は酷な気もしますが、税務署的には厳格な要件が必要としています。
今回の事例で言うと、生前に清算まで済ませておけば1400万円の財産になったので、清算が可能な会社はできるだけ早く実行した方がいいということになります。
また、継続する会社の場合は、少しずつでも役員に返済していった方が相続税及び納税資金の面でも望ましいと言えます。