秋に向けて慰安旅行を企画されている会社もあるかと思います。 気候もよくて、食べ物も美味しいというのが一番の理由と思われますが、企画した慰安旅行が福利厚生費とならないケースがあることをご存じでしょうか?
国税不服審判所が公表した審査事例(平22.12.17採決)に会社が全額負担した「2泊3日」の海外慰安旅行につき、福利厚生費としては認められず従業員に対する現物給与であると判断したものがあります。
どんな旅行だったかと言うと…
イ.慰安旅行は会社の休業日である土曜、日曜、祝日を利用して実施。
ロ.旅行参加者は社長を含め従業員のほぼ全員が参加。
ハ.宿泊はランドマーク的なホテル、一人一部屋、食事は現地有名レストランを利用。
ニ.専用の添乗員付き。
ホ.旅行費用は一人241,300円で、全額会社負担 で慰安旅行は5年に1度のペース。
なぜこの慰安旅行が福利厚生費として認められなかったのでしょうか。
まず税務上の福利厚生費の範囲はこうなっています。
イ.旅行に要する期間が4泊5日以内(海外の場合は現地の滞在日数)。
ロ.参加する従業員の数が全従業員の50%以上。
ハ.特定の人だけを旅行の対象としない。
ニ.不参加者にお金や商品券等を渡さない。
ホ.旅行費用が社会通念上一般的に行われていると認められる範囲内であること。
この範囲に今回の事例をあてはめてみます。
イ~二:OK
ホ:分かりやすく言えば「世間一般的に会社が負担する旅行費用の水準を著しく超えてはダメですよ!」ということです。 税務の基本的な考え方では、従業員や役員が受ける経済的利益(経済的利益とは今回の事例でいえば、無料で旅行に行けるということ)は給与所得になります。 その中で社会通念上一般的に行われていると認められる範囲内の福利厚生行事に限っては課税しないという考え方をします。これを「少額不追求」といいます。
「少額不追求」という考え方はこんな従業員の感覚も反映しています。
① 会社の行事なので仕方なく参加せざるをえない。
② 自分の意思で行く旅行と比べれば価値が低い。
③ レクレーション行事は社会通念上どの企業でも行われている。
今回の事案の争点は、一人当たりの旅行費用が社会通念上会社が負担する旅行費用の額を著しく超えているところが問題となります。
では、一体いくらならセーフでいくらならアウトなのでしょうか?
実務上は「会社負担1人10万円程度(条文等には明記されていない)」が福利厚生費処理の限度といわれてます。
国税庁のサイトにも次のような非課税となる例が出ています。
① 社員全員が参加
② 4泊5日
③ 旅費は1人当たり総額25万円(本人負担15万円、会社負担10万円)
この例示から、ある程度の目安は10万円であることがうかがえます。 また総額に占める会社負担割合はとりあえず問われていないこともうかがえます。
今回の事案に当てはめると、ランドマーク的なホテル、一人一部屋、専用の添乗員、現地有名レストランあたりを変更し、一部自己負担という形をとれば、会社負担が一人10万円程度におさまり、給与課税されなかったものと思われます。
また、慰安旅行は5年に1度だから単年度ベースでみれば1人48,000円で10万円以内だという考え方もあるかも知れません。 しかし、従業員が受ける経済的利益は、慰安旅行が実施された時点で発生しますので、単年度に引き直すなどの考え方はしません。
計画のたてかた次第で経理処理が分かれてしまう慰安旅行、企画の際にはご注意下さい。