持株会社化による節税

posted by 2022.06.7

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 前回の続きで持株会社税務面から見ていきます。

 企業統制やM&Aの観点で持株会社を作ることももちろんありますが、節税目的で作るケースも多いです。
何の節税かというとオーナーの相続税です。

 

 創業オーナーは株の大半を持っていることが多く、長年経営していると株価は上昇していきます。
非上場会社の株式は広く売買できるわけではないので実質的な価値は高くないのですが、税務上は経営権をプレミアムとして評価するので想像以上に高くなります。
相続税は超過累進税率で財産が増えるほど高くなるため、ほぼ株だけなのに最高税率(55%)ということもあり得ます。

 

 そこで持株会社の設立を検討することになります。
典型的な流れは次のようなものです。

① 後継者が出資して持株会社を設立

② 持株会社が銀行から融資を受けて事業会社の株式を全て買取り

③ 設立後は子会社である事業会社からの配当収入で銀行借入を返済

 どこが節税かと言うと②の株式買取りの譲渡税が20.315%で済むので、相続税率より大幅に低くなるという点です。
創業オーナーの手許には株の売却代金が残るので相続税の納税資金に使えますし、引退後の生活資金にもなります。
株価については買取りの時点で確定しますので、その後業績好調でも創業オーナーの財産がさらに増えることはありません。

 

 また相続税以外では法人税の節税になることもあります。
持株会社の下に100%子会社を複数ぶら下げる形を取れば、グループ通算制度(現在の連結納税制度)により黒字の会社と赤字の会社を損益通算することができます(申請必要)。
またグループ法人税制を使えば、100%の親子あるいは子会社間の財産移転を簿価で行うこともできます(申請不要)。

 

 一方、持株会社化による節税には注意点もあります。

・売却額の計算

売却額は相続税評価額ではなく法人税法上の評価額になります。
法人税法上の評価額は、法人税相当額が控除できない、土地や株式は時価、小会社として評価するなどの点で相続税評価額と違いがあり、相続税評価額より高くなる傾向があります。

・費用面

上記①~③の流れの通り、持株会社化は割とシンプルな手法ですが、金融機関などから多額の手数料を請求されることがあります。
顧問税理士にも事前に相談するようにしましょう。

・否認リスク

持株会社化するだけでなく、資産管理会社を組み合わせるなど複雑なスキームにして多額の相続税を回避しているケースでは、相続税節税だけが目的の不自然な取引に該当するとして裁判で負けている例もあります。
極端な節税策を採らないこと、持株会社化に経済的合理性があることなどがポイントになってきます。

・持株会社その後

持株会社化のスキームは株価が上がり続けることを前提としていますので業績不振で株価が下がれば逆効果になりますし、配当による返済も難しくなることがあります。
ただ好きで業績不振になるわけではないので致し方ないところはあります。

 

 節税ありきではなく、企業統制や事業承継などトータル的に考えて実行するようにしましょう。