伝家の宝刀 ①

posted by 2022.04.20

samurai_kettou

 税金関連の判決が専門誌以外で話題になることは少ないのですが、昨日最高裁判決が出た相続税の事件は判決前から一般紙でも取り上げられていました。

 テーマは一言でいうと「たとえ合法的でも度を過ぎた節税はNGなのか!?」というものです。

 

<経緯>

① 2009年:90代の父親が都心のマンション2棟を借入金で購入(13.9億円)

② 2012年:父親死亡、相続税0円で申告(マンション評価3.3億円<借入金)

③ 2016年:国税局が追徴課税3億円(マンション評価12.7億円)

④ 2020年:東京地裁で納税者敗訴、2021年東京高裁で控訴棄却

⑤ 2022年:最高裁で上告棄却、納税者の敗訴確定

 通常の裁判の流れだと高裁の判決内容が変わらないなら最高裁に上告しても何も開かれずあっさり棄却されて終わりなんですが、今回は最高裁で口頭弁論が開かれたので「もしかして大逆転あるのか」「負けるにしても基準や方向性が示されるのでは」「今後の節税の基準になるかも」と実務家の間では注目されていました。

 

<合法的なのか?>

 今回の節税は合法です。

 相続税で土地を評価する場合、通常は財産評価基本通達に基づいて路線価を使って評価します。
道路ごとについている路線価に面積を掛けて土地の評価額を計算しますが、都心のタワーマンションの場合、評価額が大幅に低く出ます。

 その理由は次の通りです。

・路線価が年1回の発表で急激な土地価格の上昇を反映できない。
・路線価は公示価格の8割で計算されており、評価の安全性を考慮して低めに出るようになっている。
・タワーマンションは土地面積の割に利用効率が高く、実勢価格(買値)が路線価より大幅に高い(今回は4倍)。

 納税者としては「国税庁が発表している財産評価基本通達に書いてる通りに路線価評価しているのに一体何が悪いのか?」ということになります。

 

<伝家の宝刀とは>

 もともとは代々伝わる家宝の名刀のことですが、”ここ一番という重要な場面でしか使わない切り札”という意味で使われます。

 財産評価基本通達6項に次のような文言があります。

「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」

 場合によっては財産評価基本通達を無視して個別に評価できることになります。
つまり”超法規的に何でもありの無双状態”なので”伝家の宝刀”と言われています。
それだけに簡単に使っていいものではなく10年で10件あるかないかというレベルです。
今回の裁判では、伝家の宝刀を使っていい内容なのか、使うとすればどういう基準があるのか、という点が注目されていました。

(つづく)