消費税の仕入税額控除 ⑥ 帳簿の記載事項の判例

posted by 2018.08.8

cf1ef422df9d7c63afdcc37623514db4_s

 仕入税額控除の最終回6回目は税務調査や裁判での事例の続きを見ていきます。

 前回は「書類の保存」についてでしたが今回は「帳簿の記載事項」が論点です。

 おさらいですが帳簿には ① 相手方の氏名又は名称 ② 取引年月日 ③ 取引内容 ④ 取引金額 の4要件が記載されていることが控除の条件です。
この4要件が帳簿に正確に記載されていない場合に控除が認められるかどうか、という点が争われています。

 

1.通称のみ記載された帳簿

<概要>
 魚の卸売業者が取引を記載する冊子に漁師グループの名称(「上野」「丸山」など)のみを記載している場合に帳簿の記載事項を満たすかどうか。

<結論>
 グループの中身があいまいで仕入先を特定できないので控除不可。

<備考>
 屋号で書くこと自体は問題ありませんが、周知性があり相手が特定できる場合や別に仕入先一覧表がある場合など仕入先が特定できることが条件になります。

 

2.出面帳は帳簿に該当するか

<概要>
 工事業者が職人を管理するために作成する出面帳は出勤簿的なもので対価の記載がないが、これは帳簿として認められるかどうか。

<結論>
 他の書類で支払対価が確認できる場合は仕入税額控除OK。1つの帳簿で4要件全てを満たす必要はない。

<備考>
 真実であることが複数の帳簿等から客観的に証明できれば仕入税額控除は認められます。
ただこの事例では帳簿が不完全であることから派生して「外注費ではなく給与」という主張も税務署からされており、帳簿や請求書等をきっちり作っておかないと別の論点に飛び火して問題が大きくなることがあるので注意が必要です。

 

3.実質的輸入者は控除できるか

<概要>
 輸入申告の名義人である会社と費用を負担した実質的輸入者が異なる場合に実質的輸入者の側で仕入税額控除が認められるか。

<結論>
 実質的輸入者は税関手続きを自らの名前でしていないので仕入税額控除不可。
実質的輸入者で仕入税額控除を認める消費税基本通達11-1-6は、税関長の承認を受けた製造者の名で申告しなければならないなど関税法で定められている場合に限られる。

<備考>
 輸入の名義借りを認めないという観点からも、実質的に輸入代金や諸費用を払った事業者ではなく、輸入申告をして税関を通した事業者でしか輸入の引取り消費税の控除はできません。
なお輸入申告をした事業者に国内販売という形で請求書を発行してもらえば通常の国内仕入れとして消費税の仕入税額控除は可能です。

 

 帳簿の記載事項については、少し書き漏れがあったら認めないというものではなく他の書類で4要件が網羅されていることが確認できれば仕入税額控除が認められます。
否認されている事例は相手方が特定できない、相手方が申告していない、相手方が不自然なのに確認する努力をしていないなど特殊な場合に限られます。

 

 消費税の仕入税額控除について基本から判例まで見てきましたが、解説した内容より今後厳しくなることも考えられます。
手間とのバランスを考えつつ、いかに真実性を証明するかを考えていく必要がありそうです。