税金の世界のルールとして「1つの事実に対して二重に課税しない」という考え方があります。
ただし二重に課税されるように感じることもあります。
・不動産を相続したら相続税がかかり、売却したら所得税がかかる。
・退職金をもらった時に所得税がかかり、亡くなった時に残金に相続税がかかる。
上記の例は理屈的には次のように二重にはなっていません。
・不動産の場合、相続税は亡くなった瞬間の価値を引き継ぐのにかかる税金。所得税は値上がり益にかかる税金
・退職金の場合、長年の功労への後払い給与に対して軽減した上でかかるのが所得税。相続税は残った残高にかかるという意味では他の給料等と同じ
とは言え、相続税と所得税の課税タイミングが近いと余計に二重に感じやすいので調整する措置もあります。
その1つが『相続税の取得費加算』です。
考え方としては、相続税を払って財産を引き継いだのであれば、それも原価に加算して、売った時の所得税を軽減する、というものです。
① 要件
・相続や遺贈により財産を取得している
・相続税が課税されている(相続税0円なら加算なし)
・相続税の申告期限から3年以内に売却(亡くなってから3年10か月以内)
・明細書を添付して確定申告すること
② 対象財産
・土地、建物
・株式
③ 計算方法
・その者の相続税額 × 売った財産の相続税評価額/その者が相続税した財産全体※
※ 相続時精算課税や生前贈与分も含む(基礎控除分は除く)
・計算した金額を原価に上乗せ(譲渡益までの金額が上限)
④ 注意点
あくまで譲渡所得の特例であるため、譲渡所得の起因である不動産や株式が対象になります。
そのため、雑所得の対象である暗号資産等は対象外です。
暗号資産は相続税では物納もできず、所得税では取得費加算も使えないことから、多額に持っている場合は生前に相続税及び納税資金について検討しておきましょう。