前回の続きで代替わりの退職金について事例でポイントを確認していきます。
<事例1>(H29.7.17不服審判所)
① 状況
・業 種:スクラップ加工業
・役 職:代表取締役社長⇒取締役会長(代表権なし)
・役員報酬:55%減額
・業 務:人事権、金融機関折衝、取引価格の決定等の権限を委譲
② 裁決(納税者負け)
権限移譲したと言いつつ、次のような実態があったため、実質的に退職したと認められず退職金は損金不算入。
・後継者を差し置いて重要な判断を独断で決めて実行
・取引先の接待は継続している
・金融機関との折衝に立ち合い
・代取の選定や役員報酬の決定に関与
・領収書全てを会長自らがチェック
<事例2>(R5.5.23不服審判所)
① 状況
・業 種:不動産賃貸業
・役 職:代表取締役社長⇒取締役会長(代表権なし)
・役員報酬:変更なし
・業 務:資金管理、経理業務全般で変更なし
② 裁決(納税者負け)
次のような実態があったため、実質的に退職したと認められず退職金は損金不算入。
・賃貸物件の管理を第3者に全面的に委託しているので、主要業務は資金管理と経理業務全般
・代取退任前後で業務の内容も役員報酬も変更なし
・役員報酬は後継者の5倍
<事例3>(R2.12.15不服審判所)
① 状況
・業 種:不動産賃貸業
・役 職:代表社取締役長⇒辞任(取締役も)
・退職金:7億2500万円
・役員報酬:0円
・業 務:辞任後も毎月グループの経営会議に参加
② 裁決(納税者勝ち)
次のような実態があったため、退職したと認められ、退職金の損金算入もOK
・親族で全株を保有し、「オーナー」と呼ばれている
・経営会議の重要事項につき、具体的な指示や経営に関する決定をしたという客観的証拠がない
・上位の立場で振舞っていた事実があったとしても直ちに経営に従事していたとは言えない
・金融機関の連帯保証人から外れ、その後海外に住所を移している
形式基準を満たすのは大前提として、実質基準としては「業務が変わった」ということを立証することが重要になってきます。
金融機関や得意先への対応、出勤日数や会議への出席など、社長退任前後で変化があったことを具体的に説明できるようにしておきましょう。
このことは税務リスクを軽減するだけでなく、事業承継をスムーズに進めるにも有効と言えそうです。