相続節税と伝家の宝刀

posted by 2019.12.12

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 路線価通り評価して相続税を計算していたにも関わらず、過度な節税にあたるとして納税者が敗訴した裁判(東京地裁 令和元年8月27日)が波紋を広げています。

 不動産の節税の在り方にも影響を与える内容なので、事実関係の整理とポイントとなった部分を解説していきます。

 

1.事実関係

・マンションを2棟購入。東京で8.3億円、川崎で5.5億円。購入資金は銀行借入金10億円+自己資金

路線価評価額は、東京2億円、川崎1.3億円と購入額の約1/4に。

・亡くなった時点で借入金10億円があり、小規模宅地の評価減も使えたので相続税はゼロ

亡くなってから9か月後に川崎の物件を5.1億円で売却。

 

2.裁判所の判断

伝家の宝刀、財産評価基本通達6項「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」を適用。

・具体的には路線価評価によることが不適当であるため、不動産鑑定士による収益還元法に基づく鑑定評価額で相続税を計算する。

・鑑定評価額は東京が7.5億円、川崎が5.2億円。相続税の追徴額は加算税を合わせて3.3億円

 

3.判決のポイント(納税者に不利に働いた内容)

購入時期が東京が相続の3年5か月前、川崎が2年6か月前。しかも相続から9か月後に川崎を売却。

・購入時に90歳、91歳と高齢でありながら多額の借入を実行。

購入額と相続評価額との間に4倍の乖離がある。

・銀行の稟議書に「相続対策のための不動産購入」の記載あり。

 

4.今後の懸念

 3の内容はいずれも合法的で、評価についても国税庁が公表する財産評価基本通達に基づき、路線価評価しているため、形式的には脱税でも何でもありません

 ただ金額が大きく、節税効果も高かったため、税務当局としても『やり過ぎ』と捉えたようです。

 一等地のマンションに限らず、現金を不動産に換えれば評価は半分程度になるので、節税策として広く行われています。
それだけに明確な基準のない”伝家の宝刀”が恣意的に抜かれることになると、納税者も混乱し、不動産取引自体も委縮しかねません。

 

 今回の地裁判決を受けて、原告の相続人は控訴しているので今後の裁判の行方も注目されます。