「良い戦略、悪い戦略」③

posted by 2013.05.2

今回は良い戦略の具体例をまず2つ見ていきます。

<良い戦略その1:1991年の湾岸戦争での地上戦>

 多国籍軍は、正面から攻め込むとみせながら、別働隊をこっそりイラク軍の側面・背後に回り込ませ、包囲網が完成したところで一気に攻撃しました。この作戦は大成功を収め、50万人を超えるイラク軍を、わずか100時間足らずで撃破しました。

あまりの圧勝にメディアはこぞって「奇抜で卓越した予想外の発想」と称賛しましたが、実のところこの「包囲殲滅」という戦術は、2千年も前にカルタゴの名将ハンニバルによって編み出されたもので、戦術の教科書なら必ず載っている基本中の基本です。

塩野七生氏の「ローマ人の物語」を読んだ方なら覚えているでしょうか。「ハンニバル戦記」の中で塩野氏は「これだけ戦闘について書いていると素人にも分かってくる。戦闘とは要するにどうやって敵を包囲するかということだ。湾岸戦争でも同じ戦法が使われたようである。」と書いています。 

自称“素人”の塩野氏でも分かる戦術ですから、奇抜な発想という訳ではなさそうです。この作戦の真に驚くべき点は、基本中の基本を断固としてやり遂げたことでしょう。

指揮権がアメリカにあったとはいえ、多国籍軍は文字通り「多国籍」です。様々な人たちが様々な口出しをします。そんな中で、「包囲殲滅」という基本方針を定め、全軍をその基本方針に沿って運用した、シュワルツコフ司令官の行動力は称賛に値します。

 

<良い戦略その2:インテル>

 インテルは半導体メモリーからスタートした会社で、様々な技術を開発してきました。しかし80年代に入ると、メモリー市場では日本企業との価格競争に耐え切れないことが明白となっていました。メモリー事業から撤退した方がいいのは分かっちゃいるのですが、メモリーはインテルの誇りそのものであり、経営陣はどうすべきか決断できず、赤字を垂れ流し続けていました。
転機は85年。社長のグローブは、ムーア会長に質問しました。

「もし我々がクビになって新しい社長が就任したら、そいつはまず何をすると思いますか」

ムーア会長は即答しました。 

「メモリー事業から撤退するだろう」

グローブ社長は決心を固めました。社内では猛反発がありましたが、メモリー事業からの撤退と、マイクロプロセッサへの転換を断固として推進し、インテルは世界最大手に上り詰めました。
(最終回へつづく)