「良い戦略、悪い戦略」④最終回

posted by 2013.05.3

前回の続きで良い戦略の具体例をあと2つ見ていきます。

<良い戦略その3:ウォルマート>

  「フルラインナップのスーパーを出店するには、10万人以上の人口が必要である」というのがそれまでの常識でした。ところがウォルマートは、人口1万人程度の地方都市に大規模店舗を出店し、成功を収めました。
ウォルマートの成功要因は色々と考えられます。よく挙げられるのは、POSシステムによるデータ管理です。POSデータを仕入先にも提供し、製販一体の物流ネットワークを構築したことで効率性を高め、「エブリデイ・ロー・プライス」を実現しました。

しかしいくら効率性を高めても、店舗運営などに必要な固定費を賄うには、十分な数の顧客が必要になります。それゆえに、「人口10万人」というのが業界の常識でした。ところが、ウォルマートはこの常識を「店舗のネットワーク化」で覆しました。
全米150店舗でカバーする人口は100万人。1店舗当たりだと6,666人にしかなりません。普通に考えると、とても採算の合う数字ではありませんが、150店舗をネットワークで繋いで一つの店舗とみなせば、十分に採算の合う数字です。
ウォルマートは、業界の常識を変えたというよりは、店舗の定義を変えることで成功しました。

<良い戦略その4:スターバックス>

 コーヒー豆の販売会社で働いていたハワード・シュルツ。
イタリアを訪れた際に立ち寄ったエスプレッソ・バーに魅せられ、アメリカでもやってみようと思い、社長に直訴しました。この社長も気のいい人で「まあ、やってみなはれ」と快諾。ここからシュルツのサクセスストーリーが始まりました。
実験店舗で手ごたえを得たシュルツは会社を退職し、自分で店を始めました。この店は、イタリアのエスプレッソ・バーをそのまま再現したものでした。立ち飲みスタイル、磁器のカップ、音楽はイタリア・オペラ、店員はベストにボウタイ、メニューにはイタリア語も併記、という凝りようでした。

このスタイルにこだわり続けていたら、シュルツの店は「近所にあるちょっと変わったコーヒー屋さん」で終わっていたでしょう。シュルツが偉いのは、顧客の反応を冷静に観察し、どんどん修正していったことです。オペラを流すのをやめ、イタリア語をメニューから消し、立ち飲みをやめて椅子を入れ、テイクアウト用に紙コップも用意しました。

「イタリア式エスプレッソ・バー」は、仮説と検証を繰り返すことで「アメリカ式エスプレッソ・バー」へと進化していきました。シュルツのサクセスストーリーは、良い戦略の3つの要素(診断、基本方針、行動)そのものです。

良い戦略の具体例を見ていくと、「診断⇒基本方針⇒行動」というシンプルな流れがよく分かります。