見解の相違?

posted by 2013.04.4

 新聞などで税金申告漏れの報道を読むと、会社側のコメントはいつも「見解の相違があった」です。
税金なんて法律の通りに計算するだけなのに、なぜ見解が「相違」するのでしょうか。
それは、実際の条文を見ると分かります。
「交際費等とは接待、供応、慰安、贈答、その他これらに類する行為のための支出」 「法人税の負担を不当に減少させる結果となるもの」 「役員に対する報酬の額のうち不相当に高額な部分の金額」
一体、何が「類する行為」なのか、何が「不当」「不相当」なのか、さっぱり分かりませんよね。
役員報酬というのは、あんまり高すぎると費用(損金)として認めてもらえません。そのことを定めているのが、法人税法第34条「役員に対する報酬の額のうち不相当に高額な部分」の規定です。いくらまでならOKなのかはっきりさせて欲しいところですが、なぜ金額を明記しないのでしょうか。
まず一つ、役員報酬というのは株主総会で決めるものだから。株主さえ了承すれば、役員報酬は自由に決めることが出来るのが原則です。 いわば自治の精神です。なのに税法で「○○円以上はダメ」と決めてしまうと、税法が役員報酬を決めることになりかねません。 会社の自治を侵害してしまいます。
もう一つ、役員報酬を「1,000万円以上はダメ」などと決めてしまうと、「なら999万円まではOKだな」と考える人が出てくるから。賢い税理士なら、条文を逆手にとって何か上手い節税策を考え出すことでしょう。 そんなこんなで金額を明記するのは難しいのです。
税法には「租税法律主義」という概念があります。法律の根拠が無ければ租税を賦課されたり徴収されることはない、というものです
ただし、これは理想であって実際は難しい。そもそも人の営みの全てを事前に予想して、予め税金の網を掛けておくなんてのは無理でしょう。 となると、税務署としては課税漏れを最小限に抑えるために、わざと曖昧な部分を残さざるを得ません。 そんな訳で「不当な」とか「不相当な」という曖昧な条文が作られるのです。見解が「相違」するのも無理はありませんね。
また「見解の相違」という言葉を使う会社側にも自社の過失は認めたくないという意思表示の側面もあると思われます。
特に公開会社の場合、会社法423条により取締役が損害賠償責任を追及される恐れもあることから「税法等の適用ないし事実認識等について過失はなかった、見解の相違である。」というわけです。 修正申告に応じると「過失の存在」を想起させかねないし、不服申立及び訴訟の機会を失うため、あえて修正申告はせず更正処分を受けるのもこの側面があるからと考えられます。