”最強”の学問である統計学の事例を見ていきます。
まずは19世紀のロンドン。十数万人の死者を出したコレラの大流行と、統計学がそこで果たした役割について。
当時はまだコレラの原因がよく分かっていませんでした。そこへ登場したのが「疫学の父」といわれるジョン・スノウ。彼はコレラ患者について徹底的にデータを集め、不思議な因果関係を見つけました。それは、なんと水道会社の違い でした。
当時のロンドンでは複数の水道会社が営業しており、隣同士の家でも水道会社が違うということがよくありました。スノウは、水道会社Aと水道会社Bではコレラの発症率が8.5倍も違うことに気が付きました。そこでスノウは提案しました。「水道会社Aの水は飲まないように」と。この提案を受け入れた地域ではコレラの流行は収束しました。
その30年後、ドイツの細菌学者コッホがコレラ菌を発見し、コレラ菌のいる水を飲むと感染することが分かりました。ということは水道会社Aの水にはコレラ菌が大量に生息していたのではないか、と推測されます。
実は、水道会社Aはテムズ川の下流から採水し、水道会社Bは上流から採水していました。テムズ川にはコレラ患者の排泄物が大量に流し込まれており、そのため水道会社Aの水はコレラ菌に汚染されていたのです。
コレラ菌が発見されるのを待っていたら被害はさらに拡大していたでしょう。大量にデータを集め、何らかの因果関係を発見し、今できる最善の手を打つ。統計学の醍醐味です。
(つづく)