担税力(後編)

posted by 2013.06.18

担税力の続きです。

 今月の給料が30万円なのに、税金が40万円だったらおかしいですよね。でも事実は小説より奇なり。これに近い話が裁判にまでなったケースがあるんです。まあ、さすがに納税者が勝ちましたけど。

 このケースは相続税でした。簡単に説明しましょう。
父親が20億円で土地を買いました。その2年後に父親が亡くなり、息子がこの土地を相続しました。ちょうどバブルがはじけた頃で、わずか2年の間にこの土地は半分以下、8億円まで値下がりしていました。

ところが、この当時の税法では「相続開始前3年以内に買った土地は、購入価格を評価額とする」とされていました。つまり時価8億円のこの土地は、20億円として相続税を計算することになります。20億円の財産に対する相続税は11億円。この土地を売っても8億円にしかなりませんから、払えるわけがない。息子さんは訴えました。

この息子さん、納税する前に財産を使っちゃった訳ではありません。そもそも8億円しかもらってないんです。それなのに11億円払えって、そりゃ無茶な話です。

裁判の結果、息子さんが勝ちました。「払えるわけないだろ」というのが主な理由です。 

時価8億円の相続財産に対して11億円の相続税。そもそも、なんでこんな計算になったのか?その元凶は「相続開始前3年以内に取得した土地は、購入価格を評価額とする」という条文です。

 相続税を計算する上での財産の価格を「評価額」といいます。その昔、土地の評価額というのは実際の売買価格(時価)よりもかなり安かったんです。時価は10億円だけど相続税の評価額は5億円、というケースがザラにあったそうです。そうなると、金持ちはみな節税のために土地を買います。10億円の現金は評価額10億円ですが、その10億円で土地を買っておけば評価額は5億円で済むわけですから、お医者さんに「お爺ちゃん、もうそろそろですよ」と言われれば、慌てて土地を買いに走ることになります。

 こんな節税策が気に入らない税務署によって、「相続開始前3年以内~」という条文が作られました。こうなると、10億円で買った土地は評価額10億円です。節税になりません。節税策の防止としては効果があったんでしょうが、問題はこの条文がバブル崩壊後も改正されずに残っていたことです。そのため、時価8億円の土地の評価額が20億円、相続税が11億円、なんてことになってしまったという次第です。