消費税控除の仕組み ②

posted by 2021.08.2

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 前回の続きで賃貸マンションを購入した場合の消費税控除について見ていきます。

 消費税は対応する売上げ、つまり購入目的によってどれだけ控除できるかが変わります。
転売目的で賃貸マンションを買った場合、最終的には建物の課税売上げが立つのでそこに着目すると「課税売上げにのみ要するもの」として全額控除できます。

しかし、入居者がいれば転売するまでの間に家賃収入(非課税売上げ)が発生するので「課税売上げと非課税売上げに共通して要するもの」に該当し、控除できる額は課税売上割合を掛けた金額になるので納税額は増えます。

 不動産業者としてはあくまでメインは転売で、家賃収入はたまたまついてくるだけで金額も少ない。それなのに購入費全体が「共通して要するもの」に分類されるのは納得いかない!ということで裁判で争う例が多くなっています。

 

① 東京地裁(令和元年10月11日)

<納税者>
 消費税控除は最終的ないし主たる目的で判断すべき。
過去の物件でも所有期間は平均で7か月以下で家賃の割合も10%以下。

<国税>
 消費税控除は仕入れ日の現況で客観的に判断すべき。
購入時に家賃収入も意図しており、安定収入と認識していた。

<判決>(納税者敗訴)
 国側の考え方を支持。
課税仕入れの目的が、納税者の主張する最終的ないし主たる目的に限定されると解すべき理由はない。
また住宅貸付けが短期間で終了することが予定されていたような事情も見当たらない。
よって「共通して要するもの」に該当。

 

② 東京地裁(令和2年9月3日)

<納税者>
 家賃収入は転売のための前提・手段に過ぎない。
そもそも転売を行わないなら買うことすらなかった。

<国税>
 家賃収入を受け取ることを客観的に予定していた。

<判決>(納税者勝訴)
 課税仕入れの区分は、仕入れ日を基準に将来の目的を認定して行うべき。
『業務実態』『過去の同種の課税仕入れ等や取引内容』『過去の同種の課税仕入れ等との異同』などと照らし合わせて判断。
今回の事例では副産物である家賃収入の割合は5%未満で、従来のビジネスモデルも考慮すると「共通して要するもの」と判断すると経済実態と著しく乖離する。よって「課税売上げにのみ要するもの」に該当。

 

③ 東京高裁(令和3年7月29日)

<判決>(納税者敗訴)
 ②の判例で国側が控訴。
高裁では国側の主張を認めて「共通して要するもの」に該当。

 

 このように裁判によって判断が分かれています。
①は控訴中で、③は判決が出たばかりで最終どうなるかは分かりませんが現時点では国側の主張が認められる例が多くなっています。

 

 なお、賃貸マンションに関する消費税については、令和2年度改正により令和2年10月1日以後に購入するものから消費税控除自体ができなくなっているので今後は上記のような事例は発生しません。

 とは言え、賃貸マンション以外でも消費税を控除する際の”目的”について判断に迷うこともあるので判例として紹介しました。