民事信託は使える⁉

posted by 2020.12.11

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 昨日の続きで成年後見制度と異なるサポート方法である民事信託について見ていきます。

 

1.信託とは

 話せば長い信託ですが、まずは全体像を理解するために言葉の説明から。

① 信託

 自分の財産を、信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って運用・管理してもらう制度

② 民事信託

 免許のある信託銀行等が商売として行うものが「商事信託」、それ以外で身内が引き受けるようなものが「民事信託」
「家族信託」はあえて言えば民事信託のうち家族で完結するものですが、ほぼ民事信託と同じ意味で使われています。

③ 登場人物

委託者…財産を持っていて、託す人(判断能力必要)

受託者…財産を託されて、管理運用する人

受益者…財産の運用益を受け取る人。委託者=受益者も可

 

2.使用例

 財産を保全するために使われる場合、次のような形態が一般的です。

委託者…財産を持つ高齢者。判断能力の低下が不安。

受託者…子どもや孫

受益者…当初は財産を持つ高齢者。死亡後は財産を渡したい人。

 この形態では、高齢で体力的にしんどい、判断能力が低下してしまったら管理運用もできなくなってしまう、という不安がある場合に、子どもや孫に実務をしてもらうことができます。
 家賃収入などの運用益については生前は財産を持つ高齢者自身が受け取り、その後は、財産を引き継がせたい人を指定しておきます。
その意味では遺言の一種としての機能があります。

 遺言であれば自分から次までしか指定できませんが、信託では30年の範囲内で次の次以降も指定できます。
例えば子どもがいない夫婦の場合に「自分→配偶者→甥姪」といった流れにすることもできます。

 

3.成年後見制度との違い

<メリット>
・成年後見制度では現状維持が基本なので積極的な運用ができませんが、民事信託は自由度が高いため、借入や物件取得など積極的な運用が可能です。

・成年後見制度は裁判所や後見監督人のチェックが入りますが、民事信託は私人間の契約であり、公的な判断の影響を受けません。

<デメリット>
・民事信託は財産の管理運用に特化しているため、成年後見制度のような身上監護(生活や介護のための手続き)はできません。そのため、民事信託と成年後見制度は併用されることも多いです。

 

4.税務上の課題

 不動産を信託した場合、登記上の名義は受益者に移りますが、これは管理しているだけなので税金はかかりません。
実際に利益を得ているのは受益者なので、受益者に所得税がかかります。
信託設定当初に「委託者=受益者」としている場合、税金的には信託せずに自分で持ち続けている状態と変化はありません。

 その後、受益者の変更があった場合に税金がかかりますがここが要注意です。

・移転時点で「信託受益権」(今後利益を受ける権利という全体的な財産)に対して相続税や贈与税がかかります。特に贈与税は税率が高いので注意が必要です。

信託の中に借入金がある場合、負担付贈与に該当して不動産を時価評価するので相続税や贈与税が高くなります。

・受益者が法人になった場合、法人には受贈益、個人には譲渡所得税とダブルで時価課税があります。

 したがって、変更時の税金が少ないパターンとしては、① 相続での変更、② 受益者は相続人の個人、③ 借入金は信託に組み込まない、ということになります。

 

 信託に関する税金については、節税効果がまずなく、複雑でかつ組み方によっては想定外に多額の税金になってしまうことも普及の阻害要因になっています。

 普及を考えるのであれば課税の繰延べなど何らかの対応が望まれるところです。