前回の続きで、路線価を使わない評価に関してこれまで争われた事例を見ていきます。
1.勝ちパターン
路線価評価を使わずに納税者が独自に評価した価額に関して”特別の事情”があると認められた事例です。
① 崖地の鑑定評価
崖地で開発できない部分があり、地盤も軟弱なので、多額の擁壁工事や造成費が必要。
② 無道路地の道路開設費用
形がいびつで、道路に面しておらず、道路開設費用が土地の価額を超えるほどかかるため、財産評価基本通達では評価できない。
③ 広大地評価の想定
税務署は全て戸建て分譲と想定して全体に率を掛けて評価しているが、実際には道路に面するのは一部であり、きめ細かく評価した鑑定評価が有効。
④ 長細い土地
175mと南北に長大で、用途地域も2つに分かれるなど特殊事情があるので路線価では評価できない。
2.負けパターン
鑑定評価の中身を検証して、”特別の事情”があるとまでは認められなかった事例も多くあります。
① 取引事例の採用に問題
参照した取引事例が著しく低廉で、売り急ぎの事例も補正されていないため、鑑定評価は採用できない。
② 訳ありの売却
相続後の売却額を時価として申告したが、特定の者との間で限定的に行われた取引であり、時価とは言えない。
③ 使用借権の評価
道路から70cm低く、また使用借権がついているとして鑑定評価したが、特別の事情があるとまでは言えない。
④ タワーマンション
亡くなる直前に被相続人に無断で購入し、亡くなった直後に売却。路線価評価ではなく、通常の取引価額で評価すべき。
④だけが逆パターンで、納税者は路線価で低く評価したのに対し、税務署は通常の取引価額で評価して、極端で不自然な節税を否認しています。
”特別の事情”が認められるためのハードルは高く、鑑定評価さえあれば必ず通るというものではありません。
これは課税の公平の見地から、合理性を有する限り、原則として財産評価基本通達で評価すべし、という考え方があるためです。
鑑定評価により申告する場合は、他の鑑定評価との比較にも耐えるもので、公示価格や近隣の適正な取引事例など様々な事情を考慮しても、財産評価基本通達による評価額が客観的な交換価値を上回ることを立証する必要があります。