再び「良い戦略、悪い戦略」③

posted by 2013.05.22

悪い戦略の例はまだ続きます。

<デジタル・イクイップメント・コーポレーション(DEC社)のケース>

 DEC社は市場でのシェアを急速に失い存続も危ぶまれていました。しかし役員間の意見がまとまらない。 

A氏「引き続きハードウェアとソフトウェアの統合に力を入れるべき」
B氏「ソリューション提案に力を入れるべき」
C氏「半導体チップの開発に本腰を入れるべき」

 結局、戦略会議がまとめあげたのは「高品質の製品とサービスを提供し、データ処理で業界トップを目指す」というもの。
もちろんこれは戦略とはいえません良い戦略は最も重要な課題に集中する、となると、たくさんある課題から選び取る、という作業が必要になる。

何かを選ぶということは、何かを諦めるということどの意見も捨てず、誰の体面も傷つけないようにしていたら、良い戦略は生まれません。

その後DEC社はコンパックに買収され、そのコンパックもヒューレット・パッカードに買収されました。

 

<クラウン・コルク&シール社のケース>

 クラウンは缶のメーカーで、小ロット生産に特化し、臨機応変な顧客対応によって高い収益性を誇る会社でした。
2代目社長が就任の際に掲げた戦略は、「規模を拡大し、リソースを有効活用する。世界最大手の金属・プラスチック容器メーカーを目指す」というもの。その戦略に従って、クラウンは容器メーカーを次々と買収しました。ちょうどペットボトル容器が登場した時期でもあり、買収した事業の中でもプラスチック容器の部門は急成長。

しかし、ペットボトルの需要というのは瓶・缶からの乗り換えであり、乗り換えが一巡したら成長も止まりました。また、クラウンは小ロット生産に特化することで優位性を確保し、価格競争に巻き込まれずにすんでいたのに、スケールメリットを追求する戦略に転換したため、優位性を失ってしまいました。需要の停滞、価格競争、過剰投資、この3つが揃えば何が起こるかは容易に想像がつきます。クラウンの株価は3年間で10分の1まで下落しました。

成長それ自体は何ら価値を生み出すものではありません。なのに多くの経営者は「成長すれば成功した」と考えがち優れた製品やサービス、イノベーションや効率や創造性という「成功」があってこそ「成長」がもたらされます。この点は勘違いしてはいけないところです。
(つづく)