遺留分の改正

posted by 2020.07.9

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 相続税法が改正されたことにより、相続が身近な問題となり、新聞等で取り上げられることも増えました。
”遺留分”という言葉をご存知の方も多いと思いますが、相続法の改正も含めてどう変わったかを確認しておきます。

 

1.遺留分とは
 相続人の生活の安定等を考慮し、遺言があっても最低限保証される取り分のことを言います。
保証されるのは法定相続分の半分で、妻と子ども2人であれば相続分は妻1/2、子ども1/4ずつですが、遺留分はその半分で妻1/4、子ども1/8ずつになります。例えば「愛人に全て遺贈する」という遺言があったとしても妻1/4、子ども1/8ずつは愛人に対して主張することができます。
なお遺留分があるのは、法定相続人である配偶者、子(代襲相続人含む)、父母等の直系尊属までで、兄弟姉妹にはありません。

 

2.遺留分侵害額の請求
 遺留分として最低限の取り分をもらえなかった人(遺留分権利者)はもらい過ぎた人に対して「返して欲しい」と主張することができます。
以前は『遺留分減殺請求』と言われていましたが、相続法の改正で『遺留分侵害額の請求』という名称に変わっています。
遺留分侵害額の請求は口頭でもすることはできますが、証拠を残す意味でも弁護士さんに相談するなどして内容証明郵便ですることが一般的です。

 遺留分侵害額の請求は相続の開始を知った日から1年以内にする必要があります。相続の開始を知らなかったとしても10年経てば請求できなくなる時効もあります。
なお1年以内に金額を確定させないと権利が消えてしまうわけではなく、意思表示さえ1年以内にしておけば話し合いや内容の検証はその後でもできます。

 

3.相続法改正の影響
 改正(令和元年7月1日~)で変わったのは名前だけでなく、根本的に何を請求するかが変わっています。
原則が「モノ」の請求から「カネ」の請求に変わっています。

 以前は遺留分を請求すると財産が共有状態になる理屈だったので、主な財産が自宅しかない場合に売るしかなくなったり、同族株式しかない場合に事業承継の障害になったりしていました。
例外的な取扱いとして、話し合いの中でお金で解決することはありましたが、裁判になった場合などにはかなり時間がかかっていました。

 改正により金銭債権が原則となったため、従来より紛争解決にかかる時間が短くなることが期待されています。なお請求された側がお金をすぐに用意できない場合には、裁判所の判断により支払を猶予する仕組みもできています。

 

 ”争続”の早期解決が期待されますが、もらい過ぎた分を返す人の立場で考えるとその分のお金を用意しておく必要があります。
また遺言を書く人が遺留分侵害のない遺言書にしておくことがそもそもの争続防止につながるので、遺言を作成する場合は「あの子にはいらん」というような思い込みにとらわれずに遺留分に配慮することが求められます。