事業承継税制 ③ 活用事例

posted by 2018.05.22

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 事業承継税制の手続きや改正点について見てきましたが、ではどういう会社に新制度は向いているのでしょうか。

 

① 株が分散している

 全株を持っている社長から後継者への承継であれば従来の制度でも対応可能です。
しかし現実的には株は先代社長だけでなく、その奥さんや社長の兄弟に分かれていることも多いです。
従来制度では先代社長の分以外は軽減の対象外で高額な相続税や贈与税が発生していましたが、新制度では社長以外の分も納税猶予の対象になります。

 父母の株式は事業承継税制により相続や贈与で受け取れますが、株主が叔父叔母や他人の場合は特例は何もなく買い取るか高額な贈与税を払うしかありませんでした。
新制度では相続時精算課税が使えることになり、2500万円までは贈与税がかからず、また超える場合も20%の税額で済むので移しやすくなります。
あくまで精算課税なので相続発生時には贈与した分を戻して相続税を再計算する必要があります。
ただ第3者が無償で株を手放すというのは考えにくいので精算課税を使うとしても祖父母か近い親族に限られるかも知れません。

 

② 兄弟で承継する

 事業を引き継ぐ側が兄弟など複数であるケースもあります。
例えば兄が営業、弟が工場というように分担したりします。
従来の制度ではどちらか1人に絞る必要がありましたが、新制度では3人まで認められます。
なお株を手放す側は第3者もOKですが、後継者は同族関係者(贈与後で株を10%以上保有し、株の保有割合が上位3位まで)に限られます。

 

③ 雇用が維持できるかが不安

 人数が少ないほど雇用の8割維持は難しくなります。
例えば従業員4人なら1人減るだけで要件に該当しなくなり、猶予されていた相続税を払う必要があります。
また空前の売り手市場で採用したくてもできない状況でもあります。
新制度では5年平均で8割以上は”努力目標”で未達成でも認定支援機関助言のもと理由を書いた書類を提出すれば納税猶予を継続できます。

 

④ ずっと事業を続けられるか不安

 あくまで納税猶予であり、相続税が免除になるわけではありません。
承継した人が事業を続ける限り猶予されますが、株を売却したり、廃業したりする可能性もあります。
従来制度ではいくらで売れようが当初の猶予額に戻って相続税を払う必要がありましたが、新制度では実際の売れた額をベースにして値下がり分に対応する相続税は免除されます。

 

⑤ 事業承継についてはっきりとは決まっていない

 誰に承継させるか、またいつ承継させるか決まっていない会社も多いと思います。
新制度は10年限定とされているので平成39年12月31日までの相続又は贈与により移転、事前の手続きとして平成35年3月31日までに承継計画を提出する必要があります。
計画を出したからと言って必ず贈与しないといけないわけではなく、権利を獲得するだけです。
誰に承継させるかを5年以内に決めて、いつ実行するかを10年以内に決めればいいので時間はあります。

 

 事業承継は当事者間では話しにくいテーマです。
追い出されると受け止める方もおられるかも知れません。
認定支援機関という第3者も入れながら、考える機会を作る、まずは仮でもいいので承継計画を考えてみることがスムーズな事業承継の第一歩であり、今回の新制度の狙いの一つと言えるかも知れません。

 

 なお従来制度についても改正があり、複数の株主からの相続・贈与も対象(①の前半の内容)になっています。
新制度で要件が緩和され、納税猶予の範囲も広がったので、従来制度を使った方は”早く実行して損した”というような状態になっています。
何らかの調整が今後あるかも知れない(あって欲しい)ので続報があればまた取り上げたいと思います。